本当なんて

終電に命からがら飛び乗ってようやく最寄り駅についたところで母から連絡が入った。
「家の近くの居酒屋で家族で飲んでいるから鍵がなくて家にはいれないのなら一回寄ってください」との旨。
ちょっとめんどくさいなぁと思いながら地元で唯一12時以降も開いてる居酒屋のドアを開くと家族と地元の知り合いたちが珍しくがやがやと集まっていた。

どこかで見たことのある顔がいくつもあって、私に向かって久し振りー!だとか、もう社会人かぁなんて声をかけている。あれは弟の同級生の親だっけか、それとも地域委員の時に手伝いにいった介護ホームの職員さんだっけ。

地元というのはよくも悪くも繋がりや結び付きが強くなってくる。地元で生まれ地元で就職し、地元で子供を産んで、その子供たちが育って地元の人間と結婚する。赤の他人なのに、私の就職先を知っていたり、弟が志望校に落ちたことを励まされたり、それが普通な状況で育ってきたけど少し遠巻きでみると異常だよなと感じることもある。

父は上機嫌でマイクを持ちながら下手な唄を歌っていたけれど、私の顔が視界に入ると赤ら顔の笑顔のまま私の名前を大声で呼んだ。

「俺は幸せだよ」
「家族のためなら仕事も頑張れる」

そんな言葉を周囲の人に漏らしながらにこにこしていた。父は最近家でしかお酒を飲まない。健康診断の結果がよくなかったからだ。
それに筋金入りの酒乱なのだ。お酒が入ると平気で怒鳴ったり人の胸ぐらをつかんだり、それもあってか私は父がお酒を飲むことに対していい思い出がない。

今日はいい酔いかたをしているな。誰にも迷惑かけてないし、よかった。
母も同じことを思っているのだろう。少しとおくのテーブルなのに他の人と話しつつ父がなにかしでかさないかと内心気にかけているのがわかる。それほどまでに、父がしでかしたお酒の失敗は家族によくない作用を及ぼしている。

蓋を開ければ機能不全家族そのものの私たちだけど、それを人前で見せることはない。
「ほんといい家族ねぇ」そんなふうにおばさんに声をかけられてははは、と空笑いをした。

どんちゃん騒ぎの喧騒のなか、私はずっと「私が自殺したらこの家はどうなってしまうんだろうか」と考えていた。

こんな娘でも父にとっては自慢の娘なのだ。
それが心からつらい。

お父さんの自慢の娘は今日も仕事で失敗して先輩に迷惑をかけました。口を開けば甘ったれた愚痴ばかりで友達も数えるほどしかいません。
あとね、こんなに育ててもらったのに得意なことがひとつもないの。もう大人なのにね。

絶対に口からでない言葉たち。
本当のことは言えない。ばれるのはしかたないけれど。
理想の娘になれなかった。その負い目が私を縛り付けている。