髪を切る意味

ショートカットの女性に憧れている。

重めのショートボブも
襟足まで刈り上げたようなベリーショートも
すごくすごく素敵だと思う。

私は、中学生の頃から一度も髪を肩より短くしたことがない。
何故?したいならすればいいだけのことではと自分でも思うのだけれど、
ショートカットにするとただでさえ低い容姿の指数が更に浮き彫りになって顔面に現れてしまう気がしてどうしてもできない。


私の好きなヤマシタトモコという漫画家の作品に「HER」という女性を主題にした話がいくつか入っている短編集がある。

その中の1篇に母親の浮気現場を目撃してしまったのがトラウマで、様々な男性とその日限りの関係をもってしまう冴えない女性の話があるのだけれど、

美容院に行く度に、
職場で その女性が陰口を叩かれるシーンを思い出してしまう。

「あの人、なんで地味なのに髪だけは伸ばしてるんだろうね」

伸ばすことにも切ることにも意味を見いだされてしまうのならば一体どうすればよいのだろう。
髪を伸ばすのであれば、美しくなければいけない責任でもあるのだろうか。

この言葉は、漫画の中の言葉であって私が言われたわけではないのだけれど、その言葉が何故か心に突き刺さって抜けないでいる。


特段丁寧な手入れもしていない私の長い髪は櫛を通すと毛先近くがざりざりと軋む。

痛んでいるところを切り揃えてもらっていいですか?長さはできるだけ変えない感じで。

美容院ではいつも同じ注文をしている。
それ以外の選択をする猶予が私には残されていない。
髪の伸びる速度は1ヶ月1センチらしい。渡されたヘアカタログに載っているショートヘアーの女性たち。もし同じ髪型にしてくださいと言ったら、今の髪の長さに戻すためには1年以上かかるだろう。

似合うのかな、似合わなかったらどうしよう。

いつも勇気がでないのは、まぁこんなもんか。と思える余裕が自分にないからなのもあるのだと思う。


普通の女性は自分がしたいからその髪型にしているのであって、そこに意味をのせる思想は前時代すぎるのかもしれない。

長い髪をばっさり切った女性に対して、
「失恋したの?」
何て聞くのは無粋以外のなにものでもない。

私は一生ショートカットに憧れるだけの人なんだと思う。あれは、正しい人たちの髪型だ。
髪というフィルターをかけなくてもいい人たちの。


この世にいる
髪に頼らずとも女性として美しい彼女らを羨ましいと思っている。