暗い部屋のなか
冨安由真さんの個展『Midnight Visitors 真夜中の来訪者』を見に行った。
以前銀座でやっていた個展は仕事の忙しさから出向くことができなかった。
この個展の開催も、以前の個展のことも知ることができたのはTwitterのおかげだ。
ぼんやり眺めているタイムラインには私の知らないことがたくさん流れてくる。他人からの情報を受動的に受け取れる場があることに、安心しているところはあるのかもしれない。
世間との関わりが狭いせいもあってかTwitterでの情報収集は無意識な癖になっている。
冨安さんはポルターガイストや幽霊、夢などの不可視の存在を作品のテーマにしている美術家で、その特徴的なインスタレーションが前回も話題になっていた。
すごく見てみたいと思った。
会場の百貨店は居心地がよい温度に冷やされていて外の熱気との隔たりを体で感じることができる。
少し歩いただけで汗が止まらない。今日のような日がこれから1ヶ月以上続くのだろうか。
スペースまでの通り道、どう考えてもこの場に不釣り合いな私にまでにこやかに挨拶をしてくれる店員さんに、なんて大変な仕事なんだろうと心がぎゅっとなる。
話がそれてしまった。
個展会場には何枚もの絵が飾られていた。
会場にご本人もいらっしゃったようで、若い女性がご本人と作品のことについて楽しげに話している。
絵をみたとき、これは絶対今日の夢に出てくるだろうなと感じた。
最近の私の夢見は、一日のダイジェスト形式になっていて印象に残った事柄をテーマに話が構築されていく。
起き抜けの頭で、「私、意外とあれを気にしていたんだな」なんて思うことも多い。
顔がぼやけていたり、黒く塗りつぶされたいくつもの肖像画はじっとみてるとなにか不安になるようなものばかりで心がざわざわする。
その不安な感じがきっと今日の夢になるんだろうと直感的に思った。
インスタレーションは、個展会場の奥の方、
黒いカーテンの仕切りを越えた部屋に置かれていた。
部屋は全体的に薄暗く、そこに作られた試着室と椅子、少し背の高いランプが置かれている。試着室のカーテン越しにちかちかと光るライトが部屋全体を不規則に照らす。
カーテンをくぐってすぐ、あ、駄目かもしれないと思った。
入り口と部屋を隔てるカーテンの近くから離れられない。そこから少し漏れる外の光を感じていないと部屋に取り残されてしまう気がして。
暗い部屋ってこんなに怖かっただろうか。
元々、そんなに暗いところは得意じゃない。寝るときでもテレビは絶対に消さないし、どんなに遠回りでも明るい道を歩いて家に帰る。家の電気だってできるだけつけたままでいたい。
玄関の鍵を開けて、鍵を閉めたあと。
電気をつける一瞬の「誰かいるんじゃないか?」という気持ち。そんな不安をこの作品をみて感じている自分に気づく。
何度か部屋に出たり入ったりを繰り返したけれどもどうしても試着室に近づけない。結局、会場のスタッフの方に一緒に入ってもらい、作品である試着室のカーテンも開けてもらって、ようやくインスタレーションの全てを鑑賞ことができた。
一度見てみると、さっきまでの不安で暗い部屋が嘘のようで、ちゃんとそこが作品というひとつの場所であることがわかる。
得たいの知れないものへの畏怖への感情をここまで感じたのも久しぶりだった。
今日は少し寝るのがこわい。
折角ならと友人の誕生日プレゼントを百貨店で買って家路につく、充実した日曜だった。