夏ばかり

冬より夏の方が感傷的な気持ちになる。

冬は全てが眠っていて動いているものも少ないしみんなどこかぼーっとしているけど、夏は生き物全てが突き動かされるように動いているように感じる。

一人だけ動けない私の輪郭が暑さと共に
あぶり出されていくような気がする。

夏があまり好きじゃないのに
思い出す光景は夏ばかりだ。

仕事を干されているので帰宅時間が
比べ物にならないくらい早くなった。

時間があると無駄に使いたくなってしまう癖がなおらず、最近は夜の散歩ばかりしている。

ビルとビルの間、公園の隅、風俗店の並ぶ街角

1ヶ月ほど前はあじさいがそこらかしこに咲いていて、見かける度に写真に撮っていた。

今、同じ道を歩くとひしゃげたあじさいの残骸たちが路地のそこらかしこにある。

あじさいって見頃が終わるとくしゃっと枯れてしまってあんまり見た目がよくない。花が枯れただけなのに死んでしまったようにうつる。

こんな飲み屋と風俗店の間で咲いて、
1ヶ月だけしかきれいでいれないのに、
有名なお寺で咲いていたらもっとよく見てもらえただろうに。

でもあじさいが他のあじさいたちと情報交換をする手だてはないから、ここにあるあじさいにとってはこの生が全てなのだろうな。
それにあじさいは私たちに見られようが見られまいが咲くし。
あじさいに私が信じるかわいいを
伝える術は私が人間である限りない。

帰り道ひとつ、あじさいひとつですぐ感傷的になってしまう夏。